常務サマ。この恋、業務違反です
私も自分の社内に超イケメンでゴージャスな男がいたら、こうやって勝手な妄想で噂して楽しむんだろうか。
いや、楽しむって言うか、これは半分夢見てる感覚にも近いのかも。


そう思いながら、私はフォークに刺したチキンを口に運んでから、あの、と思い切って切り出してみた。


「何!? 実はやっぱり胸キュンすることくらいあった?」


途端に目を輝かせて食い付いて来る新庄さんに、いや、ないな、と呟きながらこの一週間のことを振り返って……。


『いい大人が、こんなことで泣きそうになるなよ』


頭の中でそんな言葉が蘇って、不覚にもドキッとした。


それなりに落ち込んでたし、自分の無能さが情けなくて、なんで私がこんな目に……って気持ちでいっぱいいっぱいだった時。
私は確かに高遠さんの言葉に励まされた。
あの言葉のおかげで、歴代稀に見る不出来な秘書だとわかっていても、私は私の出来ることを頑張ればいいんだ、って気持ちを入れ替えることが出来た。


そして……。


「……頭、撫でられた」

「……は?」

「ポンポン、って」


言いながらあの時のことを思い出して、カアッと頬が熱くなるのを抑えられなかった。


巷で騒がれる胸キュン仕草は、割と本当に胸キュンなんだな、って、今更ながら自覚した気分。
だって今まで私、そんなこと男の人にされたことがないんだから。


それでも私の返事を聞いて、向かい側の二人は何度か目を瞬かせた後、はあああっと大きな溜め息をついて椅子の背凭れに大きく寄り掛かった。
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