常務サマ。この恋、業務違反です
「そんなの知るか。
でも俺は営業担当として、そのエグゼクティブがどんな人間なのか、知らなきゃいけないって思ってるよ。だからこれまで以上に努力するつもり」


緘口令が敷かれたオフィス相手にどうやって、と思ったけれど、加瀬君の瞳はさっきよりずっとキラキラしている。
だから、私もそれ以上は責めることも貶すこともせずに、ただ黙って頷いた。


「……まあ、頑張って。私も出来ることは協力するから」


つい気まぐれに親切心を顕わにして、そんなことを言ったのが運の尽きだった、と思う。


加瀬君は私の言葉をしっかりと最後まで聞いた後、見たこともない人の悪い笑い方をして、ググッと身体を前にせり出して来た。


「言ったね? その言葉、待ってた」

「……は?」


思わず背を仰け反らせて加瀬君から逃げながら、背筋にスーッと寒気が走った。
なんだろう、この嫌な汗が伝う感覚は。
そう思いながら、私の生体反応の全てが、今まで害にもならなかった人のいい同期から引き出されていることは自覚している。


「実はもう案は練ってあるんだ。きっと今回もこうなるってわかってたし、昼のうちに課長に上申してあって、決裁ももらってる」

「……あの、加瀬君?」

「協力してくれるよね? 葛城」


いつもは明るい屈託のない表情が、悪魔のような笑みに変わった。
それをはっきり視覚で認識した時。


『嵌められた』?


私は初めて、彼が仕掛けた落とし穴にどっぷり嵌り込んでいたことに気付いたのだった。
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