常務サマ。この恋、業務違反です
◇
黒いスーツを着崩さずにきっちり着込んで、私は人事部長と二人、応接室で向かい合っていた。
「いやあ、助かりましたよ。もう誰も紹介頂けないと思っていましたから……」
人の良さそうな人事部長は、暑くもないのにしきりに額にハンカチを押し当てながら、愛想良く私にへりくだって見せた。
「いえ、私の方こそ。今日のこの初日を、楽しみにしてました」
本当にそう思ってるの!? だったら大人しく契約更新すればいいだけじゃない!……と心の中では罵詈雑言を並べたてながらも、心の声が漏れないように、私はどうにか無理矢理笑顔で抑え込んだ。
なんで私がこんなところに……とは思う。
あの日、加瀬君の『案』を聞いた私は、まずとにかく驚きで声も出せず、何の冗談だと笑い飛ばした。
なのに、週明け出勤した私を待っていたのは、常識じゃ到底考えられない非情な『業務命令』……。
「葛城君、三ヶ月間、派遣スタッフとしてウェイカーズ証券のエグゼクティブを探って来てくれ」
かなり額の生え際が後退したいかめしい顔の部長が、真面目腐って口にした言葉だとは思えなかった。
エイプリルフールでもないのに、ずいぶん大がかりな嫌がらせをし掛けて来たもんだ、と笑い飛ばしたかった。
そしてそれが正真正銘、本気のミッションだって自覚するまでに、それほど時間は必要なかった。
加瀬君に、無情の契約非更新の通知が来てから二週間。
私を完全に置いてけぼりの状態で、お膳立てだけは立派に整った。
そして折しも四月一日。
厳しい就活を生き抜いた新社会人達が、期待と不安に心を揺らしながら巣立って行く記念すべき日。
私は例の曰くつきのクライアントのオフィス……超高級ビルの三十階にあるウェイカーズ証券の応接室に、ちょこんと座っていた。
黒いスーツを着崩さずにきっちり着込んで、私は人事部長と二人、応接室で向かい合っていた。
「いやあ、助かりましたよ。もう誰も紹介頂けないと思っていましたから……」
人の良さそうな人事部長は、暑くもないのにしきりに額にハンカチを押し当てながら、愛想良く私にへりくだって見せた。
「いえ、私の方こそ。今日のこの初日を、楽しみにしてました」
本当にそう思ってるの!? だったら大人しく契約更新すればいいだけじゃない!……と心の中では罵詈雑言を並べたてながらも、心の声が漏れないように、私はどうにか無理矢理笑顔で抑え込んだ。
なんで私がこんなところに……とは思う。
あの日、加瀬君の『案』を聞いた私は、まずとにかく驚きで声も出せず、何の冗談だと笑い飛ばした。
なのに、週明け出勤した私を待っていたのは、常識じゃ到底考えられない非情な『業務命令』……。
「葛城君、三ヶ月間、派遣スタッフとしてウェイカーズ証券のエグゼクティブを探って来てくれ」
かなり額の生え際が後退したいかめしい顔の部長が、真面目腐って口にした言葉だとは思えなかった。
エイプリルフールでもないのに、ずいぶん大がかりな嫌がらせをし掛けて来たもんだ、と笑い飛ばしたかった。
そしてそれが正真正銘、本気のミッションだって自覚するまでに、それほど時間は必要なかった。
加瀬君に、無情の契約非更新の通知が来てから二週間。
私を完全に置いてけぼりの状態で、お膳立てだけは立派に整った。
そして折しも四月一日。
厳しい就活を生き抜いた新社会人達が、期待と不安に心を揺らしながら巣立って行く記念すべき日。
私は例の曰くつきのクライアントのオフィス……超高級ビルの三十階にあるウェイカーズ証券の応接室に、ちょこんと座っていた。