雨上がりの虹のむこうに
 厨房へと向かうとシェフの御山さんと、パティシエのミオちゃんが試作品を前にして言い合いをしていた。

「御山さんの料理は軽すぎます」

「華やかでいいだろう」

「もっとがつっり系のレパートリーもあっていいと思います」


 春らしい一皿には魚のカルパッチョに食べられる花、エディブルフラワーが散らされていて黄色やオレンジ、ブルーなど見た目も鮮やかだった。


「ウエディングばっかりで手抜きを覚えたんですか? 」

「旬の食材を使いこなすのがシェフとしての力量だろう。野性味あるジビエなら好みの問題だし、こちらでもお客様のニーズに合わせて用意している」

「だから軽いのよ。提供できるメニューを増やすのもシェフのつとめだわ」


 ……いつものこととはいえ、お互いに喧嘩ごしのやり取りで肝が冷える。ちらりと隣を伺うと緊張した様子でやり取りを見守っていた。


「熱くなるのはわかるけど、新しく契約したカメラマンの方も驚いているわよ」

 ぎりっと音のしそうな勢いで、二人同時にこちを向くので、どきりとする。こういう息があったところがあるので、案外仲はいい。

 ただ仕事に関してはお互いプロ意識があって意見を譲れないだけなのだ。

 
< 14 / 113 >

この作品をシェア

pagetop