雨上がりの虹のむこうに
無器用な器用
 建物のあちこちからシャッターを切る音がする。


 先日めでたく仮契約を結んだ山並さんが、建物の中をあちこち歩きまわって撮影をしているからだ。

 歴史のある建物といえば聞こえはいいけれど、この状態を保つためにはメンテナンスが欠かせない。

 それでも丁寧に塗られた漆喰や、精緻な細工を施されたステンドグラスを見るたびに、手をかけて保存されていることに安心する。



「山並さん休憩をとりませんか」

 
 声をかけると、小さな目がしぱしぱと瞬いた。ひきつれるように顔が歪む。


 ……大丈夫、嫌だからじゃない


 人見知りで照れ屋でもある山並さんは、感情を顔に出すことですらためらうようで、あいまいな表情を浮かべる。


「今ならパティシエの子も休憩に入ってますから、試作品の味見ができますよ」


 とてもマメな我が社のパティシエは、常に試作に余念がない。それでなくても、常時お菓子を持ち歩いているのでおこぼれに与ることも多い。
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