雨上がりの虹のむこうに
「まだ試用期間ですが……カメラマンの山並です」

 ぺこりと大きな体を折って挨拶しているのも、熊のぬいぐるみが動いているように見える。体は大きいものの、性格ゆえか恐ろしさを感じない為であるらしい。

 対する厨房陣はまだ戦闘体制を継続していた。眉をあげたミオちゃんが山並さんに問いかける。

「パティシエールの棚沢美桜です。どう思います? 女性に媚びた一皿じゃありません? 」

「シェフの御山です。そんなことはありませんよね。季節感と華やかさを一皿で表現しているし、購買層も明確ではありませんか? 」


 あ、言ったよ。明らかに女性が対象だって。


 それを聞いたミオちゃんの鼻の頭にしわが寄る。


「御山さんの頭の中、軽いのよ。作る一皿とおんなじ」


 ぷいっと頬を膨らませ怒っている。繊細な細工もするパティシエでありながら、彼女はひとりで全行程をこなすため力仕事にも音を上げない。作るケーキへの妥協を許さないため、気が強い。
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