雨上がりの虹のむこうに

 困ったように、照れながら山並さんが歩いてくる。

「仕事、休ませてしまいましたね」

「大丈夫です。休みは自分で調整できますから」

 それからお互い口をつぐんでしまう。話したいことや聞きたいことはあるのに、なにから聞いていいのか困ってしまう。

「品川さん、きっと帰ってくるので何か身につけているものを貸してもらえませんか? 」

「は、はい」

 とっさに思いついたものは、髪をまとめていたシュシュでそれを取って山並さんの手のひらにのせる。

 淡いピンクのシュシュは、山並さんの手のひらで頼りないくらい小さく見える。

「ありがとう」

 山並さんが優しい笑みをみせる。思わずこぼれたその笑みが、心から嬉しそうに見えたので私まで嬉しくなる。

 小さなシュシュを大切そうに左胸のポケットにしまう。ポケットの上からシュシュを確認するかのように、とんとんと叩いてみせた。

「これでどんな氷壁でも登っていけそうです」

「無事に帰ってきてくださいね」
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