会社で恋しちゃダメですか?
「TSUBAKIの社長の息子で検索かけた。そしたら、ほら」
スマホの小さな画面の中に、TSUBAKIの社長と、その家族の写真が映っている。
「これっ。若いけど、でも、部長だよね?」
紀子は「すごいでしょ」と言わんばかりの口ぶりだ。
「マジか」
朋生が絶句する。
「調べたの、電車の中でね。この記事、経済人の家庭っていう特集で、週刊誌に載ったやつみたい。セレブ感たっぷりじゃない? 見てよ、奥さんのこの洋服。どうみたってラルフローレンでしょ」
小さな写真の中の部長は、高校生かそのくらいで、紺色のブレザーにえんじ色のタイ。どこかの制服か。まっすぐカメラを見て、社長が笑っているその横で、にこりともしていない。そして妹が一人。同じ制服を着ている。
逃げたい。
そう思っていた頃。
「ちょっと、ニコちゃんに報告しなきゃ。ラインで送っちゃおっと」
紀子がうきうきでそう言うので、園子は「まって、やめなよ」と止める。
「なんで?」
ぽかんという顔で、紀子が園子を見る。
「だって……よく思われないかもしれないじゃない?」
園子が言う。
朋生の顔を見ると、眉間に皺を寄せてまじめな顔をしている。彼はプロジェクトチームの一員だ。TSUBAKIを出し抜き、生き残ろうとしていた計画は、筒抜けだった。むしろはめられたのかもしれない。朋生の頭の中が、手に取るようにわかる。
不穏な空気が、広がりつつあった。