会社で恋しちゃダメですか?


連休明けの社内は、どことなくけだるい。


朋生とは「おはよう」と、何もなかったかのように挨拶した。


「体調は?」
「うん、平気。ありがとう」
「少し痩せたな」
「すぐ戻るから大丈夫」
園子が笑うと、朋生の顔にも笑みが浮かぶ。


こんな風に、普通に、過ごして行けばいい。
いつか、この気持ちも、消えて行くだろう。


「ねえちょっと!」
アジアへ旅行に行っていた紀子は、出社早々興奮して話しかけて来た。薄手のカーディガンを引っ張るように脱ぐと、どかんと勢い良く椅子に座る。


「なに?」
「部長って、TSUBAKIの社長の息子なの?!」
「えっ」


園子は絶句した。


なんで、紀子が知ってるの?


紀子は鞄に入れていたファッション誌を取り出すと、園子の前に開いて見せた。


「この記事。あおいのインタビュー記事」
紀子が言うと、「なに?」と朋生が首をのばして、覗き込んだ。


「彼女の恋愛観とか話してるんだけど、ココよ。見て!」
紀子が記事を指差す。


「アメリカでTSUBAKIの社長の息子と出会って、激しい恋に落ちたって書いてる。今自分がその会社のCMに出演していることに、大きな巡り合わせを感じる。彼のためにこの道に進み、彼のために仕事をしてるって」


「どこにも、部長のこと書いていないじゃないか」
朋生が「発展しすぎ」と、紀子をからかう。


「見てみて。書いてるって。ほらここ。『今彼は、TSUBAKI関連の会社で、仕事をしてる。最近再会して、一緒に過ごす時間も多い』」
「それで?」
朋生が馬鹿にしたような顔をする。


そこで紀子は勝ち誇ったような顔をした。ぐいっと自分のスマホの画面を、二人の目の前につきだした。




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