会社で恋しちゃダメですか?
紀子を止めても無駄だった。あっという間に噂は広まる。紀子を責めても仕方ない。
「誰にも言わないで。実はね」
そうやって、物事は知られて行くのだ。
プロジェクトチーム以外の社員は、どこか納得したような表情で山科を見る。
確かに、育ちが良さそうで、上品だ。
頭もいいし、仕事ができる。
そうか、TSUBAKIの息子だったのか。
そりゃ、優秀だろうな。
それから徐々に事態を把握しはじめる。
「部長はTSUBAKIからの監督役ってこと? これからどんどんTSUBAKIの優秀な社員を送り込んで来て、竹永を立て直そうとしてるとか……。ってことは、もしかして俺たち、人員整理される?!」
プロジェクトチームのメンバーには、瞬く間に怒りが広がる。止めたくても止められない。
いつもの深夜ミーティング。会議室に集まったメンバーには、燃え上がるような気迫が感じられた。部長を問いただして、本当のことを聞くのだ、という強い意志。みんな目を吊り上げて、ひそひそと話し合っている。
園子はミーティングの用意をしながら、はらはらしていた。もしかしたら、全部が水の泡となるかもしれない。部長への信頼が消え失せたら、誰もこのプロジェクトを続行できない。終わりだ。
オフィスの反対側にある部長の部屋の扉は、朝からしまったままだ。すぐ近くにいるのに、連絡事項はすべてメールで行った。本当は扉のをノックして「大丈夫ですか? これからどうしたらいいでしょう」そうやって聞いたほうがいいのは分かっていたけれど、園子にはその勇気がなかった。