会社で恋しちゃダメですか?


あおいの顔から、戦闘的な気配が薄れて行く。かわりに深い悲しみが広がった。


「どんなに反対されても?」
あおいの口から、弱々しい声が出る。


「ああ」
「一生結ばれることがなくても?」
「彼女が側にいてくれるなら、それでいい」


あおいが「そっか」とつぶやいた。


「わたし、何やってんだろう」
あおいが力なくそう言った。「この何年間かは、全部無駄だったってことなんだ」


「あなたは、自分で輝ける人だって、TSUBAKIの社長が言ってました」
園子は思わずそう言った。


「自分で輝きたい人だって」


あおいはちょっと考えてから、小さく微笑む。
それから社員に対して「お騒がせしてすみませんでした」と言って頭を下げた。


振り返らず、オフィスを後にする。


彼女の姿が見えなくなったとたん、オフィスが一斉に騒がしくなった。


山科は園子の肩から腕を外すと、社員に向かって「申し訳ありませんでした」と頭を深くさげた。その姿を見て、園子も同じように頭を深く下げる。


「いつのまに、そんなことになってたんだ?」
田中専務がにやにやしながら、近寄って来た。


「お騒がせしてしまって、申し訳ありませんでした」
「いや、いいよ。若いって、いいな」
そう言った。


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