会社で恋しちゃダメですか?
これまでの人生の中で、こんなに試着で緊張したことはない。
値札は恐ろしくてみられない。繊細な作りのドレスに、自分の身体を押し込む。変な汗が染みて、買い取りになったらどうしよう。小心者の園子は、気が気ではない。
レッド、ピンク、グリーン、ホワイト。
一通りのカラーとデザインを試してから、店員は「じゃあ、こちらを」と一着園子に差し出した。
濃いブルーのドレス。高級な布が作る、柔らかなドレープ。
そのドレスを着て、試着室を出ると、店員が履いたことのないような、高いヒールの靴をさし出す。同じく濃いブルー。
店員が満足そうに頷いた。
よろめくのを必死に耐えながら、階段をゆっくりと降りて行く。ソファに座る山科も、ダークグレーのスーツに着替えていた。えんじ色のタイと良く合う。
園子の姿を見ると、山科はうれしそうな顔をする。
「ありがとう。完璧だ」
店員にそう言った。
「じゃあ、次」
山科はドレス姿の園子をそのままエレベーターに連れて行く。
「六階の美容室を予約してあるから」
「……準備万端なんですね」
園子は不安定な足下を気にしながら、必死に平静を装った。