会社で恋しちゃダメですか?
美容室には、シャンデリアが光る。白い床はすべりそうで、園子の緊張は極限状態だ。
「山科さま、お待ちしてました」
「この子、よろしくおねがいします」
「かしこまりました」
そして、再びあっという間に連れ去られて、あっという間に園子の髪はアップスタイルにされる。首もとが突然すーすーして、園子は居心地が悪い。
「肌がきれいですね」
「はあ、ありがとうございます」
三十代の女性スタイリストが、手際よくメイクアップしていく。
オレンジのチークに、大人びたルージュ。アイラインを強く引かれると、まったくの別人。鏡の中の女性を、園子は見たことがなかった。
山科が鏡の中の園子を覗き込む。
「きれいだ」
そう言った。
言い方がいつもの山科とは違う。園子はどぎまぎして、思わず胸の辺りに手をやった。
山科がポケットから箱を取り出し、大振りな石のついたネックレスを、園子の首にはめる。山科の指が、園子の首の後ろにあたった。びくっと身体が震える。
気づかれたらどうしよう。
こんなにもドキドキしていることに、気づかれてしまったら。
「さあ、支度ができた。いきましょうか」
山科が手を差し出した。