会社で恋しちゃダメですか?


その言葉で抵抗していた園子の力が抜ける。


「忘れるまで、俺は待てる。だから、忘れろ」


忘れたい。忘れたい。忘れたい。
本当に全部、忘れたいの。


園子の頬に涙が伝う。


朋生が腕をゆるめ、園子の頬を手の甲でそっと拭う。
それから身をかがめて、涙の跡に優しく口づけた。


園子は立ち尽くしたまま、目を閉じる。


優しくされると、甘えたくなる。よりかかりたくなる。


鞄が手から滑り落ちた。


「山本くん……わたし」
園子が口をひらきかけた瞬間、朋生の動きが突然止まった。園子が目を開けると、朋生の瞳に驚きが見える。


振り向くとそこに、山科が立っていた。


「部長……」
園子は心臓がつぶされて、かすれた声しかでない。


「山本、お前もう帰れ」
山科の冷たい声が、空っぽのオフィスに響く。


「でも」
「帰れ」
山科が強く言い放つと、朋生は気圧されたように鞄を掴んで、背を向けた。


何度も振り返りながら、朋生はしぶしぶオフィスを出て行く。
園子は無意識に震えだした。

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