会社で恋しちゃダメですか?
「山本と付き合うのか?」
園子のすぐ目の前で、山科が冷たく訊ねた。
園子はあがり続ける体温に、頭を振り回されているような感覚に陥る。後ろのデスクに手をついて、意識をしっかり持とうと力を入れた。
山科が一歩園子に近づく。「あいつのことが、好きなのか?」
「部長に関係あります?」
嵐が吹き荒れている頭の中とは対象的に、園子の口からは冷静な言葉が出てくる。
「それは」
山科の言葉が途切れる。園子はキッと山科をにらみつけた。
「部長とわたしは、上司と部下というだけで、それ以上になにかありますか?」
園子の口調が強くなる。
「失礼します」
園子は鞄を拾いあげると、廊下に向かって走る。
「おいっ」
山科が後をおいかけ、今まさにオフィスの扉を通り抜けようとしていた園子の前に躍り出る。突然進行方向を遮られ、園子はよろけて一歩後ろに下がった。
「君は、山本が好きなのか?」
扉を両腕で遮って、山科が怒鳴った。
「だったら、何だっていうんですかっ?」
理性はどこかへ吹っ飛んで、園子の口から次から次へと言葉が吐き出される。
「部長にはあおいさんがいるじゃないですか」
「なんで、あいつの話がでてくるんだ? 今は関係ないじゃないか」
「そう、ぜんぜん、まったく、わたしとは、関係ない話なんです」
肩で息をする。呼吸をしすぎて、胸がいたい。
「彼女は、部長を真剣に愛してるんです。必死に努力をして、あなたを取り戻しにきた」
「……」
「部長だって、忘れてない」
「それは……」
山科がつまる。