溢れる手紙
「んっ…」
「んっ…」
光が、目を刺激する。あたしは、ゆっくりと体を起こし、ゆっくりと階段を降りていく。と、そこには既に料理をしているお母さんがいた。
「おはよう」
お母さんは、あたしの声が聞こえるとこっちを振り向いてニコッと笑った。母は、いつもマイペースで穏やかだ。支度を済ませ、家を出た。「今日は、いい天気だな〜」なんて、独り言を発した。不安を消すかのように。なんてったって、今日からあたしは高校生になるのだ。初めての皆との出会い、学校生活にワクワク、ドキドキ。あたしの名前は、田島友希。友達と、希望を持って欲しいと言う由来で最初の文字を取って友希なのだ。家から学校まで、約15分。そこまで距離は遠くないから歩いて行く。あたしは、空を見上げた。案の定雲1つない。両側には、桜が満開に咲いている。春を感じながら歩いた。
「フゥ…よっし!」
学校に着き、足を踏み入れた。周りには、しゃべり声が聞こえる。元気のいい声。あたしは、靴から上履きに履き替えていた。すると、背中が重くなった。
「ヒャ!」
いきなりの事で、ビックリして思わず大声を出してしまった。
「よぉ!奇遇だな」
そこに居たのは、幼なじみ龍だった。確か、龍はN高校に行くって言ってた。なのに、なんでここに居るんだろう。
「なんで、あんたがここにいんのよ?N高校じゃなかったの?」
険しい顔で龍を見た。「実は俺、落ちたんだよね。N高校に。それで、友希がここの高校を受けてるのを知って入ったきたってわけ。」
そう言って、ニッと笑う龍。その表情は昔と変わっていなかった。
「そうだったの。じゃ、もう行くね。」
あたしは、呆気なくその場を離れた。もう一度振り向いたら、龍は他の友達と話していた。
「さらに不安になってきたし。」
階段を上って、教室の前にある掲示板を覗いた。新クラス名簿を見ると2組、田島友希と書いてあった。教室のドアを開けた。
ガラッ…
中学校の時と景色は変わらなかった。男子はかたまっていてじゃれ合ってる。女子は、楽しそうにおしゃべりをしていた。馴染める様子はなかったので、自分の席に着いた。その時ドアの方から龍が入ってきて、あたしが座ってる席の前に座った。そして、こっちを振り向いて
「宜しくな!」
なんて言ってきた。そうだ、龍と友希は苗字が同じなんだ。田島龍。幼稚園の頃、周りの子から人気者で、愛想良くて、気が利く子だった。あたしは、そんな龍に憧れていた。それは、誰にも言えないちょとした秘密だ。
キーンコーンカーンコーン…
先生が入ってきた。
「おーい、席に座れ!」
まだ、席に着いてない子に軽く頭を叩いていた。
「今日は、新入生の式があるから体育館に行くように」
「だりぃ」「めんどくせ」と言った声があちこちから飛び交っていた。あたしもめんどくさいわよ!と心だけでツッコミを入れた。
移動して体育館に行く途中、誰かから腕を掴まれた。
「え、ちょと!」
振り返ると、そこには龍がいた。
「サボるぞ」
ちょうどいい。さぼりたかったんだ。
スタスタと歩いて行く龍に、ひたすら着いていくあたし。
「どこいくの?」
「屋上に決まってんだろ」
階段を上って上って、やっと着いた。重たいドアを開け二人でフェンスに寄りかかった。
一時景色を見ていると、
「お前…」
と声が聞こえた。
「ん?何?」
「お前、友達作れんのか〜?」
龍は、遠くの景色を見ながら吐いた。
「馬鹿にしてるでしょ」
と、苦笑しながら聞くと
「当たり前だ。」
とはっきり言われた。
「作れるし。一人や二人ぐらい作れるし!」
なんて、強がって言ってみるものの内心自信はなかった。「まぁまぁ、そんな強がんなって」
龍は、笑っていた。絶対こいつなめてる。
あたしは、知らんふりした。すると、龍がこっちに向いてきて
「なら、友達作る?俺のダチ紹介してやんよ」
驚く事を言ってきた。
「本当に!紹介して」
食いついたあたしに、鼻でフッて笑った。
「いくぞ!」
龍に押されるがままに歩いた。教室通路に行き、3組進んで隣にある4組の教室へと進んだ。ドアの前に止まると、龍が振り向き
「ここは、危ねぇから俺の後ろに隠れとけ」
なんで?危ないの?あたしは、学ランの裾を掴み隠れた。
ガラッガラッ…龍が乱暴にドアを開けた。
「お前、ふざけんなよ!ああ?」
知らない男の罵声が聞こえた。あたしは、ビックリして顔を上げた。どうやら、喧嘩してるっぽい。それを見ている女が楽しそうに笑ってる。6人程度かな?結構人がいる。この人達と友達になれっていうの!?正直…嫌だ。
龍はその光景を見て
「またやってるし。めんどくせ」
なんて言いながら、男の間に入って喧嘩を止めてる。あたしは、ボケーとつったっていたら、女があたしに気づいたのかこっちに歩み寄ってきた。その人は、金髪頭に制服着崩してるし、違反物ばっか身に着けてる。
やばい。やばい。やばい。これ、絶対殴られると思い、顔を覆ったその時、
ガバッ…
いきなり、抱きついてきたのだ。
「えっ!」
「可愛いね!あなた」
すると、他の女もこっちに向かってきて
何故か質問攻めされた。
「名前は?」
「何組の子?」
あたしは、天パってきて分からなくなった。
「ばーか、こいつ頭わりぃから分かんねんだよ」
と、笑いながら発した龍。
「えー?」
女達も、面白がっていた。
何故か、恥ずかしさがこみ上げてきてその場から離れたあたし。もう、なんなの!あたしは、なんだか腹が立ってきてはや歩きで行く。不意に教室を見ると、ほかの生徒は居なくなっていた。
「あ、もう昼か。」
静かな廊下は、あたしの声がやけに響く。
学校を出て、昼ごはんを買いに行こうと思いコンビニに寄っていった。
弁当を買い、外へ出ると
ブォン…ブォン…
一台のバイクがとまっていた。しかも、男はこっちを見ていた。不思議に思いながらも素通りしようとしたその時
「ねぇ」
と、声をかけられた。
怪しげに男の顔を見ると、そこにはさっき教室で見かけた男の子だった。
「こんにちわ」
あたしは、頭を下げ挨拶すると眩しそうに笑って
「向こうで話さない?」
なんて言ってきた。あたしは、別に嫌じゃなかったからオッケイをした。
お互いベンチに座り早速聞いてきた。
「名前は?」
頭を傾かせ、あたしを見てるその男。
「田島友希だよ」
「いい名前だね。俺は、藤田海星。しくよろ」
海星くんか。かっこいい名前…
「宜しくお願いします」
すると、いきなり声を上げて笑われた。
「改まりすぎだろ、友希ちゃん。」
あたしは、恥ずかしくなり顔が真っ赤だ。自分でも分かる。
「龍とはどんな関係?」
別に怒ってる訳でもなく、穏やかな口調で聞いてきた。
「幼なじみ」
それを聞いた海星くんが、目を大きくして唖然としてる。
「まーぢで。だから、仲良かったんだ」
仲良くないよって言いたかったんだけど、その言葉を飲み込んだ。
「あの、海星くんは龍とどんな関係なの?」
「あ、俺は龍の先輩。ま、あそび仲間ってのもあるけど」
海星くんは、龍の事を思い出すかのように苦笑していた。海星くんは、龍の事可愛がってくれてる事が分かる。それから、色んな話しをしてくれた。
「もうこんな時間か。」
海星くんは、腕時計を見てた。
「送っていくよ」
そう言って、あたしをベンチから立たせた。「ありがとうございます」
お礼を言って、海星くんのバイクに乗った。
海星くんのバイクは、黒のマジェスティックでピカピカだった。
「はい、メット」
そう言って渡してくれた。けど、海星はメットをしていなかった。
「メットは?」
あたしが聞くと、こっちを向いて
「ないよー」
って優しい顔で言った。
あたしは、申し訳なくなりメットを返したら
「俺は、大丈夫だから。」
と言って、あたしにメットを被せてくれた。
「女の子が大事だからね」
照れたように笑った海星くん。
ブォン…ブォン…
2回蒸した後に、ゆっくりと進んで行った。
暴走族みたいに雑な運転とは真逆だ。景色が、スローモーションに見える。
「風…気持ちいい…」
ポツリと吐いた声に、勿論運転している海星は気づかない。海星くんの男らしい背中。整った顔立ち。髪の毛は、ダークブラウンで無造作に遊ばせている。何だろう。この気持ち。ドキドキが止まらない。何かが溢れてきそう。
「到着!」
海星くんの声が聞こえてやっと気づいた。
止まっていたのは、家の前だった。
「あれっ、なんであたしの家知ってるの!?」
あたし住所なんて教えてないよ。
「龍から聞いてたんだ。じゃ、俺行くね!」
そう言って、バイクを進ませようとしてた。
「あ!海星くん、送ってくれてありがとうね!!」
大声でお礼を言うと、海星くんは手を上げた。
明日も、会えるかな。もし、会えたら嬉しいな…
家に入ってリビングに行くとお母さんとお父さんがご飯を食べていた所だった。
「ただいま」
と、声をかけると
「ただいま、友希も食べる?ご飯」
お母さんが、ニコニコしながら聞いてきた。
「うん、食べる」
だから、あたしも笑顔で返した。今日のご飯はハンバーグだ。
「美味しそう…いただきます」
お腹空いてたのか、あたしの皿はあっという間に空っぽになった。それを見ていたお父さんが、何故か大爆笑し始めた。
「何?なんか可笑しい事あった?」
ちょと強めの口調で言うと
「いや、友希がっつき過ぎてたから」
穏やかなしゃべりでお父さんが言った。
お父さんは、皿を台所に直しテレビの所へ行った。あたしも、風呂へ行き部屋に戻るとベットに入ってすぐに眠りについた。
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