花明かりの夜に
だれかの声で紫焔に気づいたらしい木の上の女が、あわてたように木の幹に体を隠すのが見えた。


「そう、そこでじっとしておいで――

よぅし、いい子だ」


かすかな笑みを唇の端に浮かべたまま、すぅっと目を細めて、ギリリと弓を引き……


シュン


鋭く太い音が空気を切り裂いて。

細い矢がまっすぐに飛んでいく。



ドスッ

みごとに矢じりが枝の中ほどを射抜くと。

衝撃でしなった枝から着物がひらりと宙を舞った。
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