残念御曹司の恋
「俺に気を遣わずにさ、大胆に変える案持ってきてよ。最初から無難に纏めてたら、そっちに頼んだ意味ないよね。」
新人のコーディネーターは、自分の仕事の出来が良くなかったことには気が付いているのだろう。
客が帰り、事務所スペースに戻ってからも、何度も「すみませんでした」と俺に頭を下げてきた。
俺は俺で、そんな頼りない彼女の態度に少しだけイライラして、つい強めの口調が出てしまった。
「…す、すみませんっ。」
また同じ謝罪の言葉を口にしつつ、彼女が目に涙を溜めているのが分かった。
これじゃあまるで俺がいじめてるみたいじゃないか。
そう思った時にはすでに遅かったのか、瞬く間に彼女の目から涙がこぼれ落ちる。
「別に怒ってる訳じゃないから。泣かれても困る。次にちゃんと考えてくれればいい。今度は事前にプランをメールで送って。」
そう告げると、彼女は再び「すみませんでした」と頭を下げてから「失礼します」と事務所を後にする。
ドアが閉まると同時に、思わず今まで我慢していた溜息が出た。
一部始終を聞いていた隣の席の後輩が声を掛けてくる。
「珍しいっすね。谷口さんが女の子泣かすなんて。」
「泣かすつもりは無かったんだが、ついイライラして強く言い過ぎた。」
なぜ、こんなにイライラするのかは自分でも分からなかった。
「いつもは、だいたい木下さんと言い合いになってますもんね。」
後輩があいつの名前を出したことによって、俺の脳内をいくつもの考えが過ぎる。
あいつなら。
もっとしっかりとした案を持ってくるし、俺にダメ出しされたくらいで簡単に凹んだりしない。
ああ、それがイライラする原因なのか。
嫌々ながらもそれを認めれば、ある一つの結論に至る。
あいつとなら。
仕事がやりやすいし、もっといいものを作れるはずだ。
悔しいけれど、それは事実なのだろう。
何だかんだ言いながらも、いつの間にかそういう関係を築いてしまっていた自分に驚く。
「少しだけ、感謝するか。」
小さな独り言を呟いて、静かに笑った俺を後輩は不思議そうに見つめていた。