残念御曹司の恋
「たぶん、竣の奴、近いうちに結婚するな。」

夫が帰宅するなり、気味が悪いくらいに上機嫌で口にしたのは、一人息子のことで。
普段、息子の私生活についてなど、興味などまるでない素振りの夫にしては珍しいなと思いつつ、思いついたことを口にする。

「じゃあ、矢島さんのお嬢さんとのお話、進んでいるのかしら?」

先日息子がお見合いをしたばかりの相手の名前を出せば、夫はすぐに首を横に振った。

「いや、おそらく違う相手だ。」
「あら、何かお聞きになったの?」
「いや、何も聞いてない。」
「相手は知ってる方かしら?」
「さあ、誰だろな?」

まるで悪ふざけしているようなやり取りだが、夫がこういう物言いをするのはよくあることだ。

「どこの誰でも、きっと近いうちに相手を連れて来るさ。俺の勘は当たるんだ。」

飄々と言い切る横顔は、いつ眺めても自信に満ちあふれている。
確固たる信念と素早い判断、業界でも有名な経営手腕は、彼の長年の努力によって身についたものだが、おそらく持って生まれた素質もあるのだろうと思う。

普通なら、根拠のない勘など当てにならないと笑い飛ばす場面かもしれない。
だけど、私は笑って彼に同調する。

「まあ、それは楽しみだわ。」

彼の勘は、実によく当たる。
その事を何より知っているのは、長年連れ添っている私なのだ。
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