残念御曹司の恋
思っていることを一気に伝えると、熊澤は驚きの表情から一転、笑いだした。

「なんだ、それ。じゃあ、相手は誰でもいいのか。」
「誰でもいい訳じゃありません。定職には就いててもらわないと困りますし、暴力振るったり、ギャンブル好きだったり、女癖が悪かったり、借金があったりする人は嫌です。」

私は大威張りで言い返した。
誰でもいい、訳ではない。
お見合い相手は写真と釣書を見ただけだが、見た目は格好良くないが、市役所に勤めている、少し気は弱そうだが誠実そうな人だった。

一人、お見合い相手のことを思い浮かべていると、熊澤は「いいことを考えついた」という顔をしてから、私をまっすぐに見つめてきた。



「じゃあ、相手は俺でも問題ないな。」

言われたことの意味さえ分からずに、間抜けな声が出る。

「は?」

彼はニヤリと笑うと、一気にまくし立てた。

「俺もその条件を全て満たしてる。仕事はしてるし、厄介な趣味もないし、この見た目と性格だから女も寄ってこない。もちろん、個人的な借金はないぞ。」

ぽかんと口を開けていた私だが、次第に我に返って言い返す。

「何言って…冗談やめてください。」
「冗談なんかじゃない。君を東京に連れて帰ることにした。とにかく、近いうちに結婚できれば君もご両親も問題無いんだろう?君の家には明日の夜に話を付けに行くから予定を空けておいてもらってくれ。」
「いや、ちょっと待って…」

あまりの急展開に流されそうになるが、「はい、そうですか」と簡単に返事をするわけにはいかない。
冗談じゃないとすると、俄には信じがたいが、私の人生を揺るがす大事件だ。
それでも、彼は一気に揺さぶりをかける。強引に持ち込めば、大体のことは何とかなるという自信があるのかもしれない。

「待たない。時間がないんだ。明日の夜には東京に帰る。君はとりあえず俺と一緒に来て、そうだな来週くらいから東京で働けばいい。異動の辞令を出すように人事課に指示を出すよ。」
「そんな、急に言われても!」
「大事なのはタイミングで、急であっても問題はない。俺は、君みたいな秘書が必要で、君は結婚がしたい。俺も、縁談で性格が悪そうな金持ちの娘を紹介されるのにいい加減ウンザリしてたから、君と結婚すれば、まさに一石二鳥だ。」
「そんな理由で結婚するなんて…」

別に結婚に大した夢を持っていた訳ではない。まあまあ好きになれそうな人と、一緒になれればいいなと思っていた程度だったのに。
目の前の男は、それ以上に軽く「結婚」すると言う。

< 143 / 155 >

この作品をシェア

pagetop