残念御曹司の恋
「君さえ、やる気があるなら東京に来ないか?」
思いがけず、そんな誘いを受けたのは、その日の夜だった。
仕事で世話になった礼にと、熊澤から食事に誘われた。
夕食はホテル近くの店で、村本も一緒に三人で済ませたが、その後、熊澤と二人ホテルのロビーでコーヒーを飲んでいた。
「仕事のことで話したいことがある」と熊澤に言われ、引き留められたためだ。
「今、ちょうど秘書を一人探している。あまり出しゃばられてもやりづらいし、かといって、仕事が出来ないのも困る。適度に機転が利く人材がなかなか見つからなくてね。その点、君の気遣いは素晴らしかった。この二日間、とても気持ちよく仕事が出来たよ。」
コーヒーを飲みながら、熊澤は補足して説明する。
その誘いは、正直とても嬉しかった。まさか、雲の上の人に自分の仕事を認めてもらえるなどとは思ってもみなかった。
しかし、私はもうすぐ仕事を辞める予定だ。残念だが、丁重にお断りしなくてはならない。
「すみません、お気持ちはありがたいのですが、私はもうすぐ退職する予定なので。」
そう告げると、彼は至極残念そうな顔で聞き返してきた。
「そうか。もしかして、結婚するとか?」
「はい、その予定です。」
「別に結婚しても、仕事はこっちで続ければいい。相手の理解がないのか?」
尋ねられたものの、これには返答する事ができない。私は、真剣に引き留めてくれている彼に対して失礼のないよう、正直にありのままを話すことにする。
「いえ、まだ相手の方にはお会いしたことがないので分かりません。」
そう答えると、眉がピクリと動いて、そのまま彼の表情が固まった。
「は?」
結婚すれば、仕事は辞める。
東京では今時めずらしいのかもしれないが、日本全体としてみれば専業主婦の方が、まだ一般的だ。
「そんなに驚くことでもないと思いますが。結婚後も働いている女性社員は工場には一人も居ませんし。」
「いや、驚いたのはそこじゃない。会ってないって、誰にだ?」
「結婚相手です。お見合いは来月することになっているので。」
淡々と答える私に、信じられないと言う顔が向けられる。
「まだ相手に会ってもないのに、結婚と退職する事まで決めてるのか?」
「そうですね。万が一その方とは、ご縁が無かったとしても、また違う方とお見合いすることになるでしょうし。どのみち、近い将来結婚して辞めることには変わりないかと。両親も望んでいますし、私も仕事は楽しいですが、そろそろ結婚したいと思っていたので。」
思いがけず、そんな誘いを受けたのは、その日の夜だった。
仕事で世話になった礼にと、熊澤から食事に誘われた。
夕食はホテル近くの店で、村本も一緒に三人で済ませたが、その後、熊澤と二人ホテルのロビーでコーヒーを飲んでいた。
「仕事のことで話したいことがある」と熊澤に言われ、引き留められたためだ。
「今、ちょうど秘書を一人探している。あまり出しゃばられてもやりづらいし、かといって、仕事が出来ないのも困る。適度に機転が利く人材がなかなか見つからなくてね。その点、君の気遣いは素晴らしかった。この二日間、とても気持ちよく仕事が出来たよ。」
コーヒーを飲みながら、熊澤は補足して説明する。
その誘いは、正直とても嬉しかった。まさか、雲の上の人に自分の仕事を認めてもらえるなどとは思ってもみなかった。
しかし、私はもうすぐ仕事を辞める予定だ。残念だが、丁重にお断りしなくてはならない。
「すみません、お気持ちはありがたいのですが、私はもうすぐ退職する予定なので。」
そう告げると、彼は至極残念そうな顔で聞き返してきた。
「そうか。もしかして、結婚するとか?」
「はい、その予定です。」
「別に結婚しても、仕事はこっちで続ければいい。相手の理解がないのか?」
尋ねられたものの、これには返答する事ができない。私は、真剣に引き留めてくれている彼に対して失礼のないよう、正直にありのままを話すことにする。
「いえ、まだ相手の方にはお会いしたことがないので分かりません。」
そう答えると、眉がピクリと動いて、そのまま彼の表情が固まった。
「は?」
結婚すれば、仕事は辞める。
東京では今時めずらしいのかもしれないが、日本全体としてみれば専業主婦の方が、まだ一般的だ。
「そんなに驚くことでもないと思いますが。結婚後も働いている女性社員は工場には一人も居ませんし。」
「いや、驚いたのはそこじゃない。会ってないって、誰にだ?」
「結婚相手です。お見合いは来月することになっているので。」
淡々と答える私に、信じられないと言う顔が向けられる。
「まだ相手に会ってもないのに、結婚と退職する事まで決めてるのか?」
「そうですね。万が一その方とは、ご縁が無かったとしても、また違う方とお見合いすることになるでしょうし。どのみち、近い将来結婚して辞めることには変わりないかと。両親も望んでいますし、私も仕事は楽しいですが、そろそろ結婚したいと思っていたので。」