残念御曹司の恋

次の日、熊澤は本当に我が家へとやってきて、両親に結婚の承諾を取り付けてしまった。

突然の話に少しくらい反対するかと思えば、父も母もまるでご近所さんに醤油を貸すくらいの気軽さで「どうぞ、どうぞ」と私を差し出した。

こうして、私はその日のうちに一週間分の着替えのみを持って東京へと連れ去られた。
数日はホテル暮らしだったが、すぐにクマザワの独身寮へと引っ越し、荷物も実家から送ってもらった。
もちろん、急に私のような庶民の娘を嫁候補として連れ帰ってきたため、熊澤の親族は大慌てで結婚に反対した。
心ない言葉を、陰で囁かれるだけでなく、面と向かって浴びせられたこともある。
ただ、いつも熊澤が私を守ってくれたことと、熊澤の父で当時社長だった勲(いさお)が結婚に反対しなかったことが救いだった。

東京本社で彼の秘書として働きながら、一年が経った頃、私たちは晴れて入籍した。

この頃には、彼の「勘」が現実のものとなっていた。
多少は強引なところはあるが、基本的に私の意見を尊重してくれる彼に、私は公私ともに強い信頼を寄せるようになり。
気が付けば、まんまと恋に落ちていたのだ。
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