残念御曹司の恋
しかし、突然そんな事を言い出した息子に、顔色を変えたのは夫だった。

「手狭なら、今度は一軒家を買えばいいじゃないか。」

真剣な表情で言い返している。
そんな夫に息子は不思議そうな声で聞き返した。

「何で?錬のことも可愛いがってくれてるし、この先、一緒に住めばもし何かあったときにも安心だろう?」

正論を展開する息子に、夫は珍しく言い淀む。
言葉を何度か飲み込んだ後で、ぽつりと言葉をこぼした。


「…とにかく、元気なうちは千夏と二人で暮らすから。」

きょとんとする息子と嫁に、思いっきり目を泳がせながらも、とどめの一言を言い放った。

「…お前たちは、邪魔するな。」

夫の言葉の意味を理解した二人は、目を見開いた。
私は、途端に恥ずかしくなって俯く。

夫は、もうこの話はいいだろうと言わんばかりに立ち上がり、錬の手を引いて「散歩に行くぞ」と、そそくさとその場を後にした。
錬も「わあい」と、‘’おじいちゃん‘’に付いていく。

残された私は、「もう、やあね」と曖昧に笑って誤魔化した。
この歳になっても、まだ恥じらいというものはあるのだ。
竣はまだ唖然としているが、司紗さんは全てを理解したのか必死に笑いをかみ殺している。

お茶を下げに来て、たまたま聞いてしまった仲本さんだけが、こらえきれずに一人吹き出した。

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