残念御曹司の恋
「やっぱり、ぶどうジュースだよね。」
錬はそう言いながら美味しそうにジュースを飲み始める。
姿だけでなく、好きな物も子どもの頃の竣にそっくりだ。
「こら、ゆっくり飲みなさい。」
司紗さんが注意をしても、錬は「はーい」と返事をしつつ一気にジュースを飲んでしまう。
その姿を見て、竣の小さい頃を思い出したのか、夫が小さな声で呟いた。
「やっぱり、子どもは可愛いな。」
「ほんとうにね。」
私もそう呟いて夫の顔を見た。
結局、夫と私は、あれ以降子宝に恵まれなかった。
意図的なものではなく、自然に任せた結果だ。
二人で話し合って、シンプルに、すべて運命に委ねようと決めたのだ。
夫も子どもが嫌いな訳ではなかった。むしろ、子煩悩な方であったと思う。だから、本当は少しだけこの運命を残念に思うこともある。
その分、孫は可愛いのだろう。
錬を優しく見つめる夫の姿をほほえましく眺めていると、竣が突然驚きの宣言をした。
「出来れば、もう二人くらい欲しいから。頑張らないと。」
「ちょっと、急に何言い出すの。」
司紗さんも初耳なのか、顔を赤らめて竣に抗議をしている。
「賑やかでいいじゃないか。子どもは多い方が幸せだ。せいぜい、頑張れよ。」
夫は平然と笑って返した。
「子どもは一人で十分だと」言い切っていた夫を思いだして、私も笑った。
すかさず、竣が続ける。
「さすがに子どもが四人になったら、今のマンションじゃ手狭だな。そうなったら、この家に戻ってくるかな。離れも空いてるし、いいだろ。」
もしかすると、子どもの話より本題はこちらだったのかもしれない。
私たちもいずれもっと歳を取る。
老後のことを心配してくれているのだろう。
そのうちに、この家も竣のものになるわけだから、当然戻ってくるのは構わないが、 同居となるとさすがに司紗さんも戸惑うだろうと心配になる。
しかし、彼女の反応には戸惑いの「と」の字も無かった。
「私もさすがに四人ともなると大変なので、時々、一緒に子供と遊んでもらえると助かります。」
あと三人産むことだけでなく、引っ越してくることもあっさり了承しているかのような口振りだ。
息子のわがままに付き合う、なんて心の広いお嫁さんだろうかと、私は感心しきりであった。