残念御曹司の恋
「まさか、買ってくれるんですか?」

冗談で言ってみると、彼は笑って返した。

「はは、俺からもらってもうれしくないでしょ?」

そう言われて、私は大きく頷いた。

「ええ、どんな指輪をもらうかじゃなくて、誰にもらうかが重要ですから。」

私の頭の中に浮かぶのは、たった一人の顔だけだ。

「これで、指輪のせいには出来ないな。」

少しだけ不安な顔を見せる彼に、微笑み返す。

きっと大丈夫です。

そう心の中では思ったのだけれど。
姉がどう決断するかは私にも分からないので、無責任なことは言わないでおいた。

お店を出ると、すでに外は薄暗かった。
家まで送ってくれるという彼に付いて、通りを歩く。

少し歩いたところで、背後から大声で呼び止められた。

「紫里!」

振り返ると、こちらに駆け寄ってくる人影がある。

よく見れば、それは先ほど顔を思い浮かべたばかりの修司で。

きっちり着こなしたスーツには似合わない、猛ダッシュで近づいてくる。

「修司。」

私が名前を呼んだのと同時に、少し乱暴に腕を掴まれた。
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