残念御曹司の恋
ランチのハンバーグプレートとオムライスを前に、私は彼に話し始める。
「私、10年以上ずっと同じ人が好きだったんです。」
「ずいぶんと、純情なんだね。」
それは違うと、否定しようとしたが、私たちの関係をうまく説明出来そうになくて、やめた。
「ずっと一緒だった、その人から離れなくてはいけなくなって。仕事も辞めて、この街にやってきました。それが、二ヶ月前です。」
「なるほど。で、まだ彼のことを忘れてないんだ?」
見透かしたような顔で、私に問いかける。
「その通りです。」
「どうして、別れたの?」
「理由はお話できません。でも、いつかは終わらせないといけない関係なのは最初から分かっていました。」
「恋愛する気が起きない理由は、それだけ?」
「はい。」
「じゃあ、話は簡単だ。俺と付き合おう。忘れるには、新しい恋をするのが一番だ。」
その軽妙な誘いに、私は首を振る。
「忘れさせてやる、なんて格好いいこと言えないけど、明るくて楽しい恋愛は提供できるよ?」
尚も、迫ってくる彼から顔を背けるように頭を下げた。
「ごめんなさい。」