残念御曹司の恋

再会して、思いを伝え合った日の夜。
俺はホテルの部屋で司紗にプロポーズした。

「司紗、頼むから戻ってきて。」

ジャケットのポケットから用意していたものを取り出して、差し出す。

「俺の側に、ただ居るだけでいいから。」

ビロード張りの赤い小箱を手に乗せて、彼女の前で開いた。
キラキラと輝く指輪に、司紗は目を見開いた。

「結婚して。」

そう告げると、彼女の目から大粒の涙が溢れた。

溢れる涙を止めようと、必死に笑おうとして、変な顔になっている。
もう、とにかく可愛すぎる。

「何て顔してんだよ。」

そう笑ってからかいながらも、俺の心臓は激しく脈打っていた。
このままでは心臓が持たないと、返事を急かしてしまった。

「返事は?早くキスして、ベッドになだれ込みたいんだけど。」

焦っているのを悟られたくなくてわざと茶化して言った。
それを見透かしたように司紗が笑う。

「ふふ、10年も待ったのに、たった数十秒が待てないの?」

待てないんだよ、悪いかよ。
もう、正直限界だ。

「10年も回り道したんだから、もう1秒だって無駄に出来ない。」

素直に口にすれば、司紗がまた泣き笑いのぐちゃぐちゃの顔になった。

「私も、一秒も無駄にしたくない。竣とずっと一緒にいたい。」

欲しかった答えを耳にした瞬間、全ての理性がどこかに消えた。
冗談のつもりだったのに、気づいたら宣言通り彼女にキスをして、ベッドへ押し倒していた。

その日、初めて、「愛してる」と囁きながら彼女を抱いた。
涙を流しながら俺と同じ言葉を繰り返す彼女を明け方まで何度も求めた。
やがて、気を失うように眠りについた彼女の指にそっと指輪をはめる。
やっと、得られた充足感から俺も深い眠りに落ちた。

長いようで、あっという間の一日だった。
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