残念御曹司の恋
「実咲、今度新しく秘書室に入った川合君だ。」

学校から帰ってくると、玄関先には見知らぬ若い男が立っていた。
優しそうな瞳にサラサラの髪、長身からすらりと伸びた手足は、まるで少女マンガの中から飛び出してきたかのようだった。

父の会社「矢島物産」に入社して四年目の25歳の若者は、私を見ると、その端正な顔をくしゃりと緩ませて笑った。

「初めまして。川合大輔です。よろしくお願いします。」

秘書室で一番若かった川合は、秘書見習いという名の所謂雑用係で、その日以降頻繁に我が家にやってきた。
父の送り迎えはもちろんのこと、忘れものや着替えを取りに来たり、ゴルフコンペの前日にはゴルフクラブを磨いていたこともある。

顔を合わせれば、彼はその顔に人なつっこい笑顔を浮かべて私に話しかけてきた。
時には無理を言って勉強を教えてもらったことも、作業しながら何時間も話し込んだこともある。
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