極甘上司に愛されてます
『……そりゃいい情報だ。サンキュ。俺の代わりにすまなかった。……もし菊爺がそれくらい元気なら、お前に一度こっちに戻って来れるか?』
「え? ……はい。もう、普段通り仕事ができそうなんですか?」
『いや……それはさすがにまだかかるんだが……』
そこで言葉を詰まらせた編集長。歯切れの悪い彼は珍しいと思いながら耳を澄ませていると、電話の向こうで聞き慣れない男の人の声が響いているのが聞こえた。
「……近くに警察の人でもいるんですか?」
『警察? ああいや……それよりも厄介そうな人が来ちまって』
「厄介そうな人……?」
『……お前もこっちに来てみればわかる』
『とにかく早く戻るように』と言われて通話は終わったけれど、なんだかハッキリしないことが多くてスマホを見つめたまま首を傾げる。
なんだか、編集長の声がすごく疲れていたような……
私はとりあえず病室に戻って、菊治さんに会社に戻る旨を伝えた。
すると菊治さんは、去り際の私を引き留めてこう言った。
「……北見さん、会社に着いたら臆病者の透吾に言っといてくれ」
「なにをですか?」
「……リハビリには、お前も付き合えってな」
……息子というくらいだもの、きっと、菊治さん、本当は編集長にも会いたかったんだよね。
編集長が思うほど、菊治さんは弱い人じゃなかったよ。
きっとリハビリもうまくいく――私には、そう思える。
「わかりました。しっかり伝えますね」
さっき菊治さんの口から聞いた、編集長と留美さんの話も気になるけれど、今は菊治さんと専務のけがの回復を祈ることと。
それから会社がこの危機をどう乗り越えていくか、いち社員としてちゃんと考える方が大事だよね。
私はそんなことを考えてひとり頷き、足早に病院をあとにした。