極甘上司に愛されてます
13.イケメン専務は根性悪


会社に戻ってみると、建物に突っ込んでいたトラックは姿を消していて、警察官の姿もなくそこは静かだった。

代わりに潰れた一階部分が丸見えになっていて、そこから目を逸らすように建物の中に入ると、すぐに二階の編集部へと向かう。


「ただ今戻りまし、た……」


扉を開けてすぐ、その異様な雰囲気に驚いて言葉が尻すぼみになった。

取材や営業で、いつも一堂に会することなんてほとんどない社員が全員自分のデスクのところに座って、黙りこくっている。

あんな事故があったから、なのかな……?

私もすごすごと自分の席に着き、姿勢を正す。

ちらっと編集長の様子を窺うと、デスクの電話を使って誰かと話していて、通話が終わるのと同時に一度私の方を見た。

けれどその目はすぐに伏せられてしまって、何か様子がおかしい……そう思いながら、周りの様子を窺っていると。

さっき私が入ってきた扉がガチャ、と開いて、二人の男性がフロア内に入ってきた。

一人は、私もよく知る人物。小太りで頭の毛が寂しい五十代後半の彼は、我が新聞社の社長。

産毛のように控え目な量しかない前髪がトレードマークで、社員の間でひそかに“ヒナ鳥”と呼ばれているけれど、それは皆に親しまれている証拠。

今朝、菊治さんとともに会社の前を掃除していたという専務と同じく、社長だからと偉ぶることが全くない人だ。

そんな彼が、後ろに従えているのは何やら場違いなイケメン。

身長は、編集長よりも少し低めだけれど長身には違いなく、細身のスーツをを着こなし、シャープな顎のラインと切れ長の瞳からデキる男オーラみたいなものが漂っていて。

口元には柔らかい笑みを浮かべているのに、不思議と圧倒的な存在感がある。

うーん……この人、何者?


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