極甘上司に愛されてます
「だからー。俺はもう別れた気でいるから関係ないって」
「ホントですかぁ?」
別れた気でいる……?
当事者の私の知らないところで、どうしてそんな話に……?
「ホント。一番は夏子ちゃん」
「“一番は”――っていうのが超怪しいんですけど。あの人のことは二番目としてずっとキープしておくつもりじゃないですか?」
「ははは、夏子ちゃんてスルドイ」
「笑い事じゃないんですけどぉ」
何を買ったか、見るまでもなかった。
……棚の向こうにいるのは誰? こんなの、私の知ってる渡部くんじゃない。
一番とか二番とか、全然理解できない話をしている。
私が、連絡取らなかったから? 仕事に集中したいって言ったから?
それなのに別れたくないってワガママを通したから?
……だとしても、こんなやり方、あまりにもひどい。
無意識のうちに手に力が入って、持っている雑誌の端に皺が寄りそうになる。
今二人の前に出て行って、渡部くんを引っぱたいたら、気が楽になるかな。
ううん……そうは思えない。
たぶん、自分の手と心が、ただ痛くなるだけだ。
「ありがとうございましたー」
再びやる気のない店員の声が聞こえて我に返ると、思った通りの大きさ、中が見えないようになっている紙袋を手にした渡部くんと、その腕に絡みつくように身を寄せる和田さんが、扉を出て行くところだった。
私の姿になんか、目もくれずに。
感情を抑えるように深く息を吐き出して雑誌を元あった場所に戻すと、私は二人の姿が見えなくなってから、コンビニを出た。