俺様富豪と甘く危険な恋
「栞南。連れてきてくれてありがとう」

「連れてきてくれたのは朝日奈さんなのに、お礼だなんて……」

「祖母を思い出したんだ。思い出も一緒にな。ここへ来なければ思い出さなかったな」

「おばあ様、きっと喜んでくれていますね」


栞南はにっこり笑った。ふいに蓮の腕が伸びて、栞南は抱き寄せられる。


「あ、朝日奈さんっ」


観光客がいるど真ん中でいきなり抱きしめられて栞南は慌てた。


「お前の笑顔は俺だけのものだ。いいか? 他の男に見せるなよ」

「そんなっ」


無茶なことを言う蓮に栞南は意義を唱える。


「はいと言うまで離さないからな」


中国人観光客にじろじろ見られて栞南の頬はみるみるうちに赤らんできている。


「わ、わかりましたっ。朝日奈さん以外、笑顔は見せませんっ」

「心がこもっていないな。罰としてキスするぞ」

「だ、ダメですっ! 本当に私の笑顔は朝日奈さんだけのものですっ」


はたから聞いたらなんというバカップルだろうか。だが蓮は栞南をからかいながらも本当の気持ちだった。


(出来ることなら日本へ返したくない……)


心とは裏腹に蓮は栞南の身体に回した腕を緩めた。

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