俺様富豪と甘く危険な恋
「そこを退いてください」


そう言ったのは彼らの後ろに立ったダニエルだ。手に酢の瓶とバケツを持っている。

トニーとジェシカは脇に退いた。


「クラゲに刺されたなんて……」


ダニエルが栞南のふくらはぎに酢をかけるのを見て、ジェシカは茫然と口にした。


「痛いだろう?」


蓮は栞南の額にじんわり湿った汗をハンカチで拭うと、ピンセットで残っている刺胞を取り除く。


「ひとりで海に出ちゃいけないだろう? これくらいだったからまだよかった。深みにはまることもあるし、足がつって溺れるかもしれない。水難事故は膝下30センチのところでも起こるんだ」

ふくらはぎを念入りに見ながら、たしなめる蓮だ。そう言いながらも大事に至らなくホッと安堵している。

まだクラゲに刺されたショックで口を開くのも億劫だった。


「ひとりじゃ――」
「私がいけないんです。出かける前に一言、注意報が出ていると言っておけばよかったんですよ。申し訳ありませんでした。ミズ・カンナ」


ダニエルが申し訳なかったと、栞南に謝る。


「ダニエルさんのせいじゃないです」


刺されたのは自分のせいだ。

用事を思い出して行ってしまったジェシカのせいでもない。あのまま一緒に入っていたら、ジェシカも刺されていたかもしれない。

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