聖夜の忘れ形見
「まぁ、カステラではないですか!」


「もう機嫌が直ったようだね」


風呂敷の結び目を解(ほど)き出てきたのは、東京大正博覧会で出品されている長崎文明堂のカステラ

食べ物に釣られたことに後悔するが、長崎のカステラがここ東京で手に入るとは思ってもみなかったので、つい頬が緩んでしまう


「博覧会に行かれたのですか?」


「ああ、上司に連れられてね。日本初のエスカレーターにも乗ったよ。10銭なのに満員で驚いた」


「10銭!同じ10銭であれば、サイダーが飲みたいです」


「サイダーか」


まだまだ子供だな


小夜のキラキラした瞳を見ていると、婚約者ではなく妹のように思えてくる

そんな風に微笑んで見ている虎太郎の心を見透かしたように、小夜はふて腐れるのだ


「長崎………。九州にありましたよね」


「そうだな。それがどうした?」


質問の意味が分からず、首を傾げた
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