君のとなりに
大事にできない
* * *

「今日から配属になりました、降谷です。」
「っ…!」

 新しい店長が来るとは聞いていた。しかし、降谷だとは聞いていない。

「持田さん、どうしたの?」
「い、いいえっ!なんでも。」

(なんで言ってくれなかったの!絶対知ってたでしょ降谷さん!)

 涼しい顔で、桜には目もくれず副店長の話に耳を傾けているなんて気に入らない。まるで桜のことを知らないみたいなこの態度。許していいものではないはずだ。

「あれー?もしかして店長のこと気になるの?」
「イケメンだもんね!前の店長に比べて。」
「別に興味ありません!」

 嘘だ。興味はある。だってあの降谷なのだから。正真正銘、泊めてもらった、嘘を見抜かれた降谷なのだから。

(よし、こうなったら自分から攻めて、動揺させてやる!)

 そう決めた桜は、副店長との話が終わった降谷のもとに行った。いつもの営業スマイルで、口を開く。

「店長、はじめまして。アルバイトの持田です。」
「…降谷です。この店舗については知らないことも多いと思いますので、よろしくお願いします。」

 何の動揺も見せずに、低く響く声でそう言う降谷に苛立ちが増す。降谷の周りに誰もいなくなったのを見計らって、桜は再び口を開いた。

「はじめましてみたいな顔しちゃって、ムカつくんですけど。」
「俺はムカつかない。」
「降谷さんのお家に泊まっちゃったんだーってみんなに言いふらしますよ?」
「好きにしろ。お前の尻軽っぷりが露呈するだけだ。」
「ああ言えばこう言う!」
「その言葉、そっくりそのままお前に返すからな。」

 降谷と出会った日から2週間後の今日。
 降谷はまたしても桜の目の前に現れた。店長、という形で。 
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