君のとなりに
「…降谷さんの彼女に、立候補しておこうかなって。」
「立候補いっぱいいるけどな。」
「いっぱいいるの?」
「この前、あー…職場の奴に言われた。付き合ってって。無理って。」
「振ったの?」
「お前と違って、俺は女遊びしないから。」
「あたしだって女遊びしないよ!」
「男遊びしてんじゃねーか。」
「もうしない。…もう、いらないから。」

 一晩の寂しさを埋めてくれる人は、もういらない。その代わりに、ほしいものがある。

「降谷さんが、ほしいもん。」
「そりゃ人生最大の我儘だな。」
「絶対…あたしを好きになってもらう、から。」
「絶対って意気込んだ割には後半小声だけど。」
「…頑張るし。」
「そりゃせいぜい頑張って。」

 ポンと軽く乗った手。この手が優しくなかったことなんて、今までに一度だってない。

「…あーずるい。ほんと降谷さんってずるい大人。」
「ずるい大人未満に言われたくない。」
「大人未満じゃなくて大人だもん!」
「中身まるで子供だけどな。」
「じきに大人になるから…待ってて。」

 降谷に完璧につり合う大人の女性になんかなれないかもしれない。それでも、今よりずっと魅力的な人間になってみせるから。

「そんなに気長な方じゃないからな。」
「…わ、わかった。」
「まぁ、無理のない程度に頑張れば?」

 少しだけ柔らかい笑顔。それにつられて、桜もにっこりと微笑んだ。

「…そういう顔すりゃいいんだよ、お前は。気取ってないで。」
「気取ってないよ!なにそれ!」
「そのままでいればいいってだけの話だよ。そろそろお前も幸せになる番だ。」
「降谷さんはいつ幸せになるの?」
「…俺も、そろそろかもな。」
「じゃあ、一緒かもしれないじゃん!」
「そうなるように、せいぜいお前が頑張れ。」
「…頑張ります。」

*fin*
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