サイレント
樹里は苦いコーヒーを一気に飲みほすと更にジャムを塗りたくってトーストをかじった。
これじゃジャムを食べているのかトーストを食べているのかわからない。

胃がムカついてキリキリと痛んだ。

「……あげられないよ」

「え?」

深く追求される前に立ち上がり、コートを羽織ると樹里は家を出た。
歩くたびにずきんずきんと頭の痛みが酷くなるようだった。

今頃一も母の作った朝食を食べ終えて学校へ向かっているだろうか。

樹里は重たい足を引きずるようにして車に乗り込んだ。

校内はいつも以上にざわざわと賑やかだった。
特に女の子達からはそわそわとした空気が放たれていて、樹里はようやく今日がバレンタインなんだと実感した。

この中に一へのチョコを持ってきている子がいるかもしれない。
そう思うと不安でしかたなかった。

特に生徒の中でも可愛い子を見つけるとこの子は違いますように、と情けない祈りを込めた。

何て惨めで哀れなんだろう。
自分よりもうんと幼い女の子達に恐怖を感じているだなんて馬鹿馬鹿しくて誰にも言えない。
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