君を好きな理由
「年の功よね」

「人のこと老人のように言わないで下さい」

苦笑に苦笑を返す。

「中学時代って、30歳になったらおじさんだと思っていたわ」

「中学時代の話でしょう? 俺とはるかさんなんて、3、4歳の違いでしょうに。俺がおじさんだと貴女もおばさんですよ」

「言えてる」

ケラケラ笑ったら、葛西さんもゆったりと微笑んだ。

なんだ。
葛西さんも案外普通の人だな。

いや、普通の人なのは知っていたけどさ。
いつも顧問に付き従う無言の人ってイメージしかなかったし。

涙でぼろぼろしていた時は、流石にビックリしたけど。

「そう言えば、最近はコンタクトにしないのね」

「はい。擦りすぎて目の中で破けましたし」

破けたって……相当擦ったわね?

「眼科に行った?」

「忠告通りに。眼科医に似たような事を言われて脅されました」

「そりゃそうよね。でも眼鏡もいいじゃない。頭良さそうで」

「……俺、からかわれてます?」

「うん」

ニヤリと笑うと眉間にシワがよった。

そもそも葛西さん秘書課でしょ。
最低限、大学を好成績で卒業した人たちの一団だよね。
国外の有名大学卒とかが多い。

逆に国内の大学卒もいない訳じゃないけど、そういう人達は語学に強い。

普通に頭がいい部類の人。

「葛西さんて、何ヵ国語話せる?」

「五ヶ国語くらいでしょうか」

「うわ。私、英語とドイツ語だけなんだけど」

「医療の世界ではまだドイツ語が主流ですか?」

まさか。

「私の師匠がドイツ語贔屓だったのよ。最近はカルテも電子化してるから主流は英語と日本語。開示することが増えてるからね」

「ああ。告知ですか」

「そう。そんな感じ」

答えて、アイスティーの最後の一口をストローで飲み終えると、窓から見える景色に目を細める。

春は終わり。
だけど初夏と呼ぶにはまだ早い季節。

灰色の風景に、微かに新芽が芽吹いて色を添える。


きっとすぐに緑の季節になる。

緑の季節になって、また茶色の季節になって……

一年なんてあっという間。

あっという間に過ぎていくから、ただ静かにしていたいだけなのに。


「はるかさんは、朝は珈琲ですが、それ以外は紅茶なんですね」

「うん。軽くカフェイン中毒よね。気がついたら飲んでるな」

「何か見えますか?」

葛西さんが視線を追って、窓の外を見る。


「別に何も見て……」

「あ」

「え?」

戻しかけた視線を外に向けると、見覚えのある顔。

大きい目がさらに大きく見開かれ、肩にかけたバックをぎゅっと握っている。

一瞬だけ葛西さんを見て、それから脱兎のごとく逃げ出した。

今のって……

「観月さん……でしたね」

「月曜日がめんどくさくなったわ」



















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