霧雨が降る森
少年はしばらくそれを見つめていたが、やがて顔を背け、さらに奥へと歩を進めた。


服が雨に濡れて気持ち悪かった。だけど足は止まらなかった。最初から顔は涙で濡れているから、ぬぐう気にもなれない。脇からぼうぼうと雑草が
生い茂る道を、ひた走った。





「お前、ユーレイみたいに気持ち悪いのに、森に行くのが怖いのかよ!」




「もしかしたら、おまえのかーちゃん、森にいるかもしれねぇぞ!」




「そうだ、そうだ。<ことりおばけ>って本当は、お母さんなんだってな。ちゃんとしたお母さんになりたくて、子どもを沢山さがしているんだって!」





「もしかしたら、おまえのかーちゃんになってくれるかもしれないぞ!」






いじめっこの笑い声が、後ろから追いかけてくるようだった。もちろん少年だって、森のおばけなんかに、母親の代わりになってもらうつもりは毛頭ない。


彼らもきっとわかっている。


わかってけしかけているのだ。


少年がおばけに、さらわれて、いなくなってしまえばいいと思っているから。














そしてそれは、遠くからやって来た親戚たちも、きっと同じに違いないのだ。







母親はとうに亡くなり、今度は父親死別した。






祖父母は最初からいなかった。
一人遺された少年に、頼れる人が一人もいないのを知っていて、だけど直接話しかけて来る親戚はいなかった。







(……僕なんか、いない方がいいんだ)





これからはもう、手をひいて歩いてくれる人はいない。優しかった父親は、一人で遠いところへいってしまった。もう、会えない。もう一人ぼっちだ。







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