霧雨が降る森
沢に架けられた小さな橋を少年は慎重に踏み越えた。杉の木の連なる小径を登っていくと、また広場に出た。


そこにも注連縄を巻かれた大岩ー磐座があった。今度のそれは、蔦が絡んでいるだけではなく、見た目が全然違っていた。


磐座全体が、淡くうっすらとした青い光に包まれていたのだ。





(夜光石だ。……やっぱり、こっちはホンモノだった)




<ことりおばけ>がいるのはきっとこの先だ。少年は広場を出て、ゆるやかな坂道を何かに誘われるように、ぴしゃぴしゃと音を立てて走った。


なんだか肌寒かった。


音もなく降り続く雨が、身体を芯から冷やしていく。



どれくらい走っただろう。
少年はぐずりと洟をすすった。思いきって声を出した。



「……お、おかあ、さん。……おかあさん!おかあさぁーん!」





実を言えば、母親のことははっきりと覚えていない。記憶にあるのは、仏壇に供えられた写真の笑顔。



それから(えらいね、ちゃんとできたね)嬉しそうに笑って頭を撫でてくれた優しい手。



抱きつけば柔らかくて、いい匂いがした。


―その程度だ。



(でもお父さんは、お母さんのことちゃんと覚えているはずだから)






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