【完】一粒の雫がこぼれおちて。
――僕が合気道を習い始めたのは、まだたったの3歳の頃。
母親に似た女顔だったということもあり、護身術として父親から紹介されたものだった。
これでも、小さな頃の僕は捻くれていなかった。
むしろ無邪気というか、素直というか。
そこそこ、親戚にも近所の人にも好かれていたと思う。
そんな僕が始めた合気道は。
思ったより、ずっと楽しかった。
確かに僕は、倉橋の馬鹿力に負けるほど腕力が無い。
だからといって、喧嘩が弱いとは1度も言ったことがないけど。
腕にくっつく倉橋だって、離そうと思えば簡単に離せた。
それでも離さなかったのは、もう合気道は止めたつもりだったから。
合気道は、封印したつもりだった。