【完】一粒の雫がこぼれおちて。





だけど、それは間違いなんだと直ぐ知ることになる。



「んっ、ぁ、あぁ……!」



放任主義な母親。


2日3日、顔を見かけないのが当たり前で。


よく知らない男の人を、家に連れ込んでいた。



「本当、使えねえ奴等ばっかりだな! 死ね、死ね!!」



暴力を奮う父親。


人前では優しくて気配りのいい人を演じていたけど、本当の彼はいつも私を殴る怖い人で。


……私はいつも部屋の隅で、膝を抱えて1日を過ごしていた。



「お兄ちゃん、おにいちゃん……っ。」



周りの人が自分の兄に向かってそう呼ぶように。


何度も私は、自分だけ普通の家庭に引き取られた優しい兄を想像して、その想像に縋った。



……じゃなければ私は、天涯孤独で死んでしまっていたかもしれない。





< 105 / 246 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop