【完】一粒の雫がこぼれおちて。
「あのさ、何回掛けて来れば気が済むわけ?」
ただでさえ肩が重いというのに、着信音でどれだけ僕の読書の時間を邪魔する気?
僕は静かな時間が好きなんだ。
雑音なんかで耳を侵さないでほしい。
「ねえ、聞いてるの?」
「…………てめえ、誰だ。」
誰だ、って……それは僕の方が聞きたい。
「人に名前を聞くときは、自分から名乗りなよ。礼儀知らないの?」
とことん馬鹿だよね、手に負えないよ。
まず、僕の周りにうろつくことさえ許したくもない。
「いいから名乗れ! おまえ……しずくの何だ?」
せっかく僕が丁寧に礼儀を教えてやったというのに。
最早手遅れな脳みそを持っている“大ちゃん”とやらには、その言葉は通じなかったらしい。