【完】一粒の雫がこぼれおちて。
…………いや、絶対有り得ない。
「い、和泉くん……。これって、和泉くんが……?」
「は?」
名前を呼ばれて倉橋の方を向けば、倉橋は自分の肩に掛けられた僕の学ランを指している。
「……そのまま放置して風邪引いて、勝手に僕のせいだとか言われても困るから……。」
「…………。」
「……っ、何さ。とりあえず、起きたのならもう返して。」
学ランを持ったまま放心する倉橋。
ちゃんとした理由はあるのに、何だか無性に恥ずかしくなって。
僕は倉橋の手から、学ランを奪い取った。
学ランを背中に羽織って、襟で軽く顔を隠す。
……2度と、コイツなんかに貸すもんか。
今まで倉橋に貸していた学ランからは、ほんのり甘い、倉橋の香りがした。