【完】一粒の雫がこぼれおちて。
これ以上自分のペースを乱されるのは嫌で、赤くなったであろう顔を隠しながら。
慌てて倉橋を押し退けた。
「あ、ごめん……嫌だった……?」
もう距離は離れたのに。
未だに、僕の心臓は暴れたまま……。
「っ……。」
「和泉くん、大丈夫……?」
――パシッ
伸ばされた手を、無意識に払った。
その際、隠していた顔が倉橋の目に映る。
倉橋の瞳には、顔を真っ赤にさせた僕が映っていた。
「帰る!!」
「えっ?」
散らばった本も持たずに、今度こそ僕はその場を立ち去る。
「ちょっと、和泉くん……!」
後ろから聞こえる倉橋の声も無視して、僕はひたすらに廊下を走った。