【完】一粒の雫がこぼれおちて。
「お願い! 和泉くん!」
「だから嫌だってば。第一、何で僕がおまえの勉強の面倒を、わざわざ見てやらなきゃいけないのさ。」
「えー……。」
倉橋がそう不満に呟いたところで、ホームルームを始めに担任が教室に入って来た。
僕は心の中で安堵の息を吐く。
それなりに理解力はあるらしく、倉橋は授業に入れば話し掛けて来ない。
まともに授業なんて聞いたことがないけど、この間の時間は僕にとって唯一、学校内で落ち着ける時間だ。
開きもしない勉強道具を机の上に出して。
僕は担任の話に耳も傾けず、伏せた体をそのまま目を閉じた。
1番窓際の席に座る、隣の席の倉橋がジッと不安そうな目で、窓の外を見ている姿が頭から離れなかった。