猫の恩返し
「あ!おいっ、ナツ!」


腕を振り払い、海へと駆け出す

サンダルだから濡れても問題はないとは思うが、何も考えずに飛び込まれて困るのは俺だ

だけど当の本人は、そんなこと気にも留めるはずもなく───


早速やっちまってるし………


「ト、ト…ト、トーゴ!」


寄せては返す波に足を突っ込み、油の切れたロボットのように不自然な動きで首だけを俺の方に向けた

固まってしまったらしく、体全体の動きが止まっている

ザザーッと音を立てて砂をさらって行く波に足を入れると、その冷たさに足から頭まで一気に鳥肌が駆け抜けた

今はちょうど満ち潮の時間らしく、沖合の方から大きな波が打ち寄せてくる

暑くて天気のいいこんな日は逆に水難事故が増えるものだと、高校時代のクラスメイトに言われたことが脳裏をかすめた


アイツ…今頃どこに居るんだかな…


今はもう廃止され、別の署へと移管された水上警察署

まさか、そこに勤務する警官になったそいつと再会するとは思わなかったが、事務をやってる身としては、水上警察と海保の仕事の違いもハッキリ言ってよく分からない
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