麗雪神話~炎の美青年~

その時、体を優しく濡らす雨を感じた。

そっと染み入るように、体を濡らす雨。

それはなぜかあたたかく、ディセルの体を包み込んでいく。

続いてふわりと体が宙に浮くような感覚がする。

これが命の終わりの感覚なのか。

自分はもう、死んでしまったのか。

ぼんやりと霞む意識の中でディセルがそう思っていると、どこか意識の遠くで聞き知った声がした。

「おっと。こんなところで彼を殺されちゃ、困るなぁ」

聞いたことのある声なのに、誰の声か思い出せない。

けれどそんなことどうでもよかった。セレイアでないなら、意味がないから…――。

ヴェインが忌々しげに舌打ちする音が聞こえる。

「くそっ、お前は…!! この男をかばうか…!」

「これ以上手出しはさせない」

「ふっ……ふははは! 
まあいい。その方が面白いかもね。そうだ、そうしよう。もっともっと素晴らしい舞台を用意するんだ。なんにせよ、いずれ僕はお前の命を狩る。命拾いしたな、スノーティアス。
また会おう…ははははは!!」

(ヴェインが…去った…?)

眠くて眠くて、それはどうでもいいことのようにディセルには思えた。

「待っててね、寝ちゃダメ、今、毒を抜くから」

「う……」

体を包み込む雨の、温かさが増す。

体に染み込んで、眠気とだるさが少しずつ抜けていく…。
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