麗雪神話~炎の美青年~
やがて、ディセルの意識は覚醒した。

それで気が付いた。

自分が相変わらず路地裏にいることと、そこであの吟遊詩人と向き合っていることに。

事実を冷静に理解した時、ディセルは驚愕せざるを得なかった。

「吟遊詩人、俺を、助けてくれた、の…?」

あのヴェインを退けただけでなく、どうやってか知らないが毒まで抜いてくれた。

「ちなみにカマキリもやっつけておいた。感謝してね。ま、そのせいで少し助けに来るのが遅れちゃったけど」

「カマキリまで…どうやって………なぜ……」

「今はその質問に、僕から答えるつもりはないよ。
すぐに教えてくれる奴が出てくるだろうし」

「…?」

吟遊詩人はふっと笑って、そのまま去ろうとする。

「ま、待ってくれ。あなたの名前…」

吟遊詩人は一度振り返ったが、またふっと笑っただけで、ひらひらと片手を振って去ってしまった。
霧を操るヴェインに、謎の力を持つ吟遊詩人。

深まる謎に、ディセルは頭痛を覚えたのだった。
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