麗雪神話~炎の美青年~
終章 告げられる事実と新たな旅立ち

眠りの霧で国境砦の警備兵が皆眠ってしまった事件は、被害がまったくなかったのもあり、原因不明として秘密裏に処理された。

炎の神サラマスの力で起こった炎も、目撃者がいなかったために、トリステアで大事になることはなかった。無論、アル=ハル族の間では伝説となって語り継がれていくだろう。しかしその話が巡り巡ってトリステアに届いたとしても、あまりにも荒唐無稽だと、信じる者はいないに違いない。

会談用の広く豪奢な天幕に、今、トリステアから国使たちの一団が訪れていた。

是非にと先にトリステアへ国使を遣わしたのは、アル=ハル族の総意だ。

テーブルを挟んで国使たちと相対するのは、ブレイズだった。

アル=ハルは見事成人の儀をやり遂げた息子を、この大舞台でデビューさせることを選んだのだ。

それというのも、成人してからの初外交としてトリステア国使を呼んだのは、なんでもブレイズの強い願いがあってのことだったかららしい。

いつにないやる気を見せる息子を、国内外にお披露目するにはいい機会だと、アル=ハルは思ったのだった。

むろんアル=ハルも席にこそついていないが、しっかりとそばに立って成り行きを見守っている。

セレイアとディセルは衝立の影に隠れ、こっそりと様子をうかがっていた。(もちろん、そうしてよいとアル=ハルの許しを得ている)
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